睡眠薬は、これまでお話してきた抗生物質や風邪薬に比べるとあまりなじみがないかもしれません。
だけど、睡眠薬を使っている人は意外に多いものです。
それで、今回は睡眠薬について説明します。
睡眠薬は怖いもの?
睡眠薬を怖がる人は多いようです。
医者の中にも、特に睡眠薬を使い慣れていない(自分で使っていないという意味でなく、自分で処方することがないという意味)人たちはむやみに睡眠薬を怖がる傾向があるようで、自分のところを受診した患者が睡眠薬を使っていると聞くと「そんな怖い薬はやめなさい」などというお節介な(そして、当の患者にとってマイナスとなることが多い)ことを言う医者もいます。
しかも、そんなことを言いながら、風邪の患者に安易に抗生物質を処方することもあるから、困ったものです。
冷静に、薬理学的に言えば、睡眠薬は抗生物質に比べて特に副作用が強いわけではありません。
もちろん、薬であるからには絶対安全とは言えませんが、むやみに乱用しなければ、さほど問題は起こりません。
そして、確実に言えること、それは「睡眠不足の害は睡眠薬の害よりも大きい」ということです。
寝不足が招く健康被害
ちゃんと眠れていない次の日は、日中に眠気がします。
眠気を自覚していなくても、大抵の場合、作業効率は良くありません。
また、睡眠不足は肌荒れの原因になります。
夜更かしをした翌日に化粧のノリが悪くなることは、女性なら誰しもが一度は経験し実感していることでしょう。
それだけではありません。
睡眠不足が続くと、血圧や血糖値が上がります。
それを放置していると、今度は心臓発作や脳卒中の危険を高めることになってしまいます。
高血圧だから血圧を下げる薬をのむ、高血糖だから血糖を下げる薬をのむということにはさほど抵抗を感じないのに、眠れないから睡眠薬をのむことに抵抗を感じる人は多いです。
「自然に、自力で、眠りたい」・・・・もちろん、薬の力を借りずに自然に眠れるのならそれが一番です。
しかし、それが無理な時は、睡眠不足を続けるよりも薬の力を借りる方がずっと体には良いはずです(心にも良いかもしれません)。
睡眠薬の種類
睡眠薬と一口にいっても、いろんな薬があります。
今の日本で一番多く使われているのは、「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるグループの薬です。
「ハルシオン」とか「ロヒプノール」とか「レンドルミン」とか、聞き覚えのある睡眠薬のほとんどはこのグループです。
そのほかに、バルビツール系の薬もあります。
これはベンゾジアゼピンの一世代前の睡眠薬で、今では睡眠薬の主役の座をベンゾジアゼピン系に譲っていますが、「ラボナ」や「フェノバール」は今でも使われることがあります。
逆に、ベンゾジアゼピン系より新しい薬として数年前から使われ始めたのが、「マイスリー」や「アモバン」です。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬
このグループの睡眠薬には色々な種類がありますが、作用時間(効き目の持続時間)によって、睡眠導入剤(寝付きを良くする薬)と睡眠維持剤(眠りを持続させる薬)の2つに分けることができます。
睡眠導入剤・・・ハルシオンなど 効き目が2~4時間程度で切れるもので、ハルシオンが代表的です。
この薬はさっと効いて、すぐに効き目が切れる即効性が特徴です。
寝付きは悪いけれど、寝付いてしまえば朝までしっかり眠っていられる人に向いています。
また、短時間で効き目が切れるので、あまり長く寝ていられない時、たとえば深夜2時頃に寝て朝6時頃に起きなくてはいけないけれど、その間はしっかり眠りたいという場合にも使えます。
睡眠持続剤・・・レンドルミン・リスミー・ロヒプノール・ユーロジンなど だいたい6~8時間くらい効き目が続く薬で、睡眠途中で何度も目が覚めるとか、朝早く目が覚めてその後はなかなか眠れないという人に向いています。
効き目の強さで言うと「レンドルミン」や「リスミー」はやや軽めで、「ロヒプノール」や「ユーロジン」などは強力ですが、作用時間や強さには個人差と相性があるので、実際にのんでみないと分からないのが実情です。
バルビツール系の睡眠薬と新世代の睡眠薬
バルビツール系の睡眠薬が今ではあまり使われなくなったのは、ベンゾジアゼピン系の薬に比べ危険だからです。
バルビツール系の薬は大量にのむと呼吸が止まるため、自殺に使えます。
「大量」というのがどれくらいかは、言わないでおきます。
そのほか、耐性や依存も生じやすく、そして睡眠の質が悪い(寝覚めが良くない)。
このような欠点があるため、不眠の患者さんにバルビツール系の薬を最初に使うことはありません。
ただ、ベンゾジアゼピン系の薬だけではどうしても対処できない時に使うことはあります。
念のために書き添えておきますが、ベンゾジアゼピン系の薬では自殺できません。
大量にのんでも意識不明になるだけで、死ぬことはほとんどありません。
マイスリーやアモバンなど新世代の睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系の薬と比べてもさらに安全性が高い、耐性や依存を起こしにくいというのがウリです。
ただ、本当にそうなのか、もう少し時間をかけて観察する必要がありそうです。
ベンゾジアゼピン系の薬も、登場した当初は、バルビツール系と違って耐性や依存を「生じない」と言われたものでした。
しかし残念ながら、その後の長い使用経験の中でベンゾジアゼピン系も、バルビツール系ほどではないにしても、ある程度は耐性や依存を生じることが明らかになりました(バルビツール系に比べると「生じにくい」けれど)。
この経験を振り返ると、新世代の睡眠薬にも過剰な期待は持たない方がよいでしょう。
それから、マイスリーとアモバンはどちらも睡眠導入剤です。
作用時間は2~4時間くらいと思っておいてください。
ドリエル
昨年か一昨年、「処方箋の要らない睡眠薬」と銘打って発売された、薬局で手軽に買える睡眠薬です。
この薬は、花粉症などの治療に使う抗ヒスタミン薬を主成分にしています。
抗ヒスタミン薬の中でも一番古い世代で、眠気の出やすい薬です。
その副作用を逆利用した薬です。
安全性の点で言えば、特にベンゾジアゼピン系の薬より安全だというわけではありません。
効果の点でも、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の方が上でしょう。
薬局で買える「ドリエル」は1錠200円くらいするようですが、もともとの抗ヒスタミン薬の薬価は1錠10円もしない程度です。ついでに言うと、ドリエルよりも効果の高いベンゾジアゼピン系の睡眠薬でも1錠10~30円くらいのものです。
わたしとしては「ずいぶん儲けているな」というのが正直な実感です。
こんな薬を使うのなら、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の方がずっとお得ですし、お勧めです。
ほかの病気を見逃さない
最後に、睡眠薬を使う時にぜひ気を付けておいてほしいことをお話します。
単純な不眠であれば、睡眠薬を2~3錠のめば眠れるようになります。
ですから、かなりの量の睡眠薬をのんでもよく眠れない時には「ただの不眠ではないかもしれない」と疑ってください。
「ただの不眠でない」ならどんな不眠なのかと言えば、ほかの精神障害に伴う不眠です。
一番多いのはうつ病ですが、そのほかの病気のこともあります。
だから、ある程度の睡眠薬をのんでも不眠が解消しない場合にはそのことを主治医に話し、何か別の病気がひそんでいないかどうかをしっかり問診してもらってください。





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